2011年3月5日土曜日

百済観音の想い出



  26歳・・・ 私が、初めて手に入れた自家用車に乗り慣れた頃・・・
  
  初めての、行ける限りの東征を試みてみました。
  高速を使わず ひたすら、国道を走り続けた結果・・・
  深夜には 神戸 に辿り着き、夜を明かします。

  まだ、目的地は定まっていません。
  気の赴くまま、湾岸を走りながら南下、関西空港付近 まで来ました。

  タイムリミット迫る中 終点を奈良にする ことと決めて
  再び東へ進路を向けます。

  夕暮れ近く、車は 法隆寺 へとたどり着きました。
  
  ついにここまで来た!、今回は、もう これ以上
  東に向ける余力は無いけれど
  軽自動車を操って下道を走る 初東征としては大満足!!!

  慣れない遠征の疲労感を感じながら、車を停めて
  窓口で訪ねてみると・・・ あと1時間で閉館する とのこと。
  急ぎ足で巡ることにします。

  「大宝蔵院を見られるのなら、急いだ方がいいですよ。」

  残り30分。

  コンデジの動作が気になって、途中で点検していた私に
  お寺の方が声をかけてくれました。
  私としては「たどり着いただけで満足!」との思いがあるのですが
  声をかけてくれた方に申し訳ない・・・という気もして
  点検もそこそこにして 大宝蔵院 を目指します。



  薄暗い部屋の中・・・ 私の足音だけが響きます。

  百済観音

  柔らかい表情を持つ、すらりとした長身の観音像が見えてきました。
  よく見ると、随分と古びて見えますが、それが味になり魅力を増しています。

  うわ~ 何頭身かいな!? 8? 人間離れしたスタイルだなぁ。
  まぁ・・・ 観音様だから、人間じゃないんだよね。
  当時の理想なんだろうなぁ~。 今と変わらないのか!?

  その時・・・

  光背から、七色に輝くまばゆいばかりの光を放ちます・・・
  観音様は、柔らかな表情を、いっそう輝かせながら、私に微笑みかけます。
  古色の肌は、いつの間にか透明感を感じさせるものに
  黄色の強い柔らかな肌色。
  金色にも思えるのですが・・・ 光背からの光の強さで、
  そう見えているのでしょう。
  
  今、目の前に訪れてきた人と出会えた事を喜び
  優しく迎えてくれているかのように見つめていらっしゃったかと思うと
  
  そこから 半歩、ガラスケースぎりぎりのところに歩み出られました。
  その時の、衣擦れの音も聴こえます。
  口を開き 何か 一言 二言 話されたように感じたのですが
  その言葉は聴こえませんでした・・・・・

  ふと

  我にかえると・・・ やはり薄暗い部屋のなか、ガラスケースの中に
  静かに微笑みながら、観音像 は立っています。

  今のは何???

  夢・・・

  それとしても、手触りがあり過ぎるんです。

  時間を見ると、思ったよりも時間が経過しています。
  夢に違いないのですが
  一瞬だけ眠った時に見る夢の感覚とは違う・・・
  考えようによっては気味が悪い。

  白昼夢なのか・・・!?

  それまで、白昼夢を空想のものと思ってきた私は
  唐突に、それらしい状況を突き付けられ、戸惑います。

  美術を習う人が、本物を見て 気を狂わせる話を聞くことがありますが
  それは、普段から美術と真剣に取り組む人だからこその事でしょう。
  私は それに至れるほどの物を持ってはいません。

  やはり・・・ 物には魂があるのだろうか!?

  直後に・・・ うねりのような畏怖の感情 を覚えました。 

  仏像を前に・・・
  私は、千余年の時を超えて、作者の方と対話をしたのでは無いでしょうか。
  
  何て羨ましいことだろう・・・
  
  いったい私が手がける仕事の何が、
  千余年の時間を超えて残るというのでしょう。
  
  物を作ることが好きな私の、何と小さく見えること・・・。
  
  その方の魂が宿っているんだ! だからこそ、これだけの時を超えて
  私の心を鷲掴みにしたんだ!
  
  今、考えれば、守った人、救いを願った人の
  魂も宿っていることでしょう。

  その時の旅から帰って後・・・ 自分なりに、あれこれと調べてみました。
  百済観音像 は
  あれだけ有名ではあるのですが、今もって来歴がはっきりしていないんです。
  その事が、一層 興味を惹きました。

  私に声をかけたのは何、何て言ったの!? 

  今も解決しない・・・

  いぇ・・・ 解決なんて、しないのかも知れません。

  その時まで、興味のカケラも感じていなかった仏像に心奪われた・・・ と
  いう事実は大きかった。
  
  もっと自分の中の引出しを増やさなくては!
  まずは・・・ 好きも嫌いも言わず、美術に触れていこう!

  そう、心に秘めるものがありました。


  悩みの多かった、この時期・・・

  むさぼるようにして、美術を眺め歩くきっかけになったことは
  心の痛みをほぐしていく手助けにもなりました。

  この時以降、同じような経験をすることは ありませんが
  たとえ、生涯に一度の事だとしても・・・
  この出会いを、とても幸せに感じています。

  そんな特別な思いを持つ 百済観音像
  これからも、折に触れて お会いさせていただけたなら・・・と思っています。 

  このエピソード・・・ いつ、ご紹介しようかと思っていたものです・・・
  思い違いでも創作だと思われたくありませんから、時の勢いで書きたくなかった。
  そのため、これまでの文章の中で、何度も伏線を張ったような恰好となっています。
  この文章も何度か構成をしているんですが・・・ きりがありませんね。

にほんブログ村 広島ブログ

0 件のコメント: